無敵の防御などありえないのだ 


どんなに硬くても内側からの破壊は防ぐことが出来ない
注!R18
*ウェカ←マジェ前提のモブマジェで後味の悪い話です。







全てはあの男が悪いのだ、とアルコールで喉を焼きながらマジェントは考える。
第一印象は「俺のことをばかにしている」と最悪だったのに、マキナックへ向けて馬を走らせている間にウェカピポは心の中に入り込み、今ではすっかり彼が好きになってしまっていた。咳き込んでいるマジェントを心配するその些細な一言だったり、彼の作る料理の温かさだったりが一々心を刺激し、鼓動を早める。なのにウェカピポはマジェントのさりげないアプローチにこれっぽっちも気付かない。マジェントの心の平穏をこんなにも乱しておきながら、彼はいつも涼しい顔をしている。
「ウェカピポさんはずりぃ。」
グッとグラスに残っていたウォッカを飲み干して呟くと、バーテンに「飲みすぎですよ」と諌められた。
「知るもんか、もう一杯くれよ。歩けなくなったら俺の先輩ちゃんに迎えに来てもらえばいいんだ。」
そう言うと、バーテンは困ったような顔をしながら新しい酒を出してくれた。口をつければ、アルコールの強さに痛みすら感じる。マキナックに近い極寒のこの地域の酒は主に体を温める目的で飲まれるため、ひどく強い。純粋に酒の味を楽しむには向かないが、ウェカピポのことを忘れるのに今は好都合であった。ウェカピポは今ごろ宿で眠りについているだろう。ウェカピポと 一緒にいると叶わぬ想いで胸が痛む、なんて女のようなことを思って一人宿を脱け出して酒をかっ喰らうマジェントのことなどこれっぽっちも考えずに。そう思うとマジェントの心は深く沈み始め、それを忘れるためにまた強い酒を煽る。
いよいよ酔いの回った彼にバーテンは次の酒を出してはくれず、マジェントは仕方なく金を払い、覚束無い足取りで外に出た。夜もすっかり更けた街の風は痛いくらいに冷たいが、火照った頬には心地よい。少し寄り道をして酔いを冷まして帰ろうか、と思いマジェントは細い路地に足を踏み入れた。万が一、あのお堅い相棒に泥酔した姿を見られるとまた小言が飛んでく るだろうし。ザクザクと時おり霜を踏む音をさせながら、マキナックまでの日数を数える。レース参加者に追い付くまであと約4日程だろう。その短い時間の中でどうすれば彼に好きになってもらえるのか。アルコールに浸った脳ではなにも思い付かなかったが、早くなんとかしなければ彼との二人旅はもうすぐ終わってしまう。
ウンウンと考えるマジェントは酔いも相まって、前方から歩いてきた柄の悪そうな集団の一人にぶつかったことに気付かなかった。
「おい、てめぇ。無視してんじゃねえよ、謝れ。」
後方から掴みかかられ、マジェントはようやく意識をそちらに向けた。もしやテロリストや我々と同じく遺体を狙う者かと身構えるがどうやらスタンド使いでも、遺体に関連する者たちでもないらしい。見るからにチンピラの風体をした5人程に囲まれ、喧嘩を吹っ掛けられたのだと理解した。マジェントは暗殺を生業とするスタンド使いである。スタンド能力は戦闘に向かぬものの、その辺の一般人よりはるかに喧嘩慣れしているし、最悪スタンドを発動させてしまえば怪我をすることはない。酒で消えなかったモヤモヤした気持ちは喧嘩で発散させてしまおうと思い、欠片も竦むことなく手近な男一人を殴り飛ばした。しかし激昂して殴りかかってきた別の男を交わそうとしたところで足がもつれ、マジェントはようやく自分がひどく飲み過ぎてしまっていたことを思い出した。たたらを踏んで体勢を崩した彼の腹に拳が叩き込まれる。
「うぐっ……!」
倒れこんだマジェントの肩が踏みつけられ、別の男が頬を張った。口の中が切れたようで、血の味が口いっぱいに広がる。気に入りのハットは地面に転がされた拍子に遠くへ飛ばされてしまった。
「クソッ……」
「こーんな弱ぇのに俺らに挑むなんて、てめぇバカなのか?」
「酒さえ飲んでなきゃお前らなんかにやられねぇよ!」
「口が減らねぇな。」
そう言ってもう一度頬を張られる。ギリギリと肩にかかる体重に顔を顰めながら、男たちを睨み付けるとその中の一人がニヤリと笑った。
「口で言ってわからねぇバカには体でわからせればいいんだよ。」
周りの男たちもそうだな、と口々に言い合い伝染したかのように皆ニヤニヤと笑い出す。目の前の奴等が何を言いたいのかを理解する前に男たちの手が一斉にマジェントに伸びた。
「何しやがる!」
手足を押さえ付けられながら抗議する。複数の男に拘束された手足は流石にビクリともしない。手のあいている男がクルクルと好き勝手な方を向いているマジェントの黒髪を痛いくらいの力で掴み、顔を覗き込んできた。
「お前さ、よくバカって言われねぇか?ここまできてまだわかんねぇのか?」
侮辱されカッと頭に血が上り、思い付く限りの罵声を浴びせようと口を開いたマジェントの眼前に信じられないものが突き付けられ、マジェントはそれ以上何も言えなくなった。鼻先から数センチのところにあるそれは男の薄汚い陰茎であった。マジェントを抑え込んでいる男たちも次々とベルトを緩め出している。事態をようやく理解するとアルコールのせいだけでない吐き気が一気にこみ上げてきた。
マジェントはウェカピポのことが好きだが、決して男と性交したことなど無かったし、そもそも男が好きなわけではなかった。
「お前みたいな口で言ってわかんねぇバカはこういうわかりやすいのが一番堪えるだろ?」
そう言うと周囲から一斉に下卑た笑いが沸き起こる。
「ほら、しゃぶれ。歯は立てんなよ。」
萎えたそれを頬にグリグリと押し付けられ、今度こそマジェントは嘔吐しそうになったが無理矢理に咥内に侵入してきた陰茎によってそれは阻止された。手足を拘束している男たちもマジェントの服を剥ぎ取り好き好きに陰茎を擦り付けたり握らせたりしている。泥酔した体では思うように抵抗も出来ず、まるで物のように扱われた。
吐き気と、肌に突き刺さる寒さと、至るところに押し付けられる熱。口の中の徐々に硬度を増していく陰茎の味は不味い。首筋や胸元を舐め回す者もいる。いつの間にか尻穴や陰茎にも手が這っており、ゴツゴツとした男の指がまさぐってくるおぞましい感触に鳥肌が立つ。
何故こんなことになっているのか。思考を止めた脳にふと、宿で眠っているウェカピポのことが浮かんだ。助けて欲しい、と思ったが彼は絶対に帰りの遅いマジェントを心配して探しに来たりなどしない。それに複数の男にこんな仕打ちを受けたと知れば潔癖な彼はマジェントを軽蔑するだろう、とも思った。救いの無さに絶望したマジェントの涙は喉を突かれる苦しみの生理的な涙と混じって ホロホロと地に落ちた。
しかし絶望と同時に自分の身は自分で守らねばならない、という思いが湧いた。服から何からを剥ぎ取られ、手足を拘束されても自分にはスタンドという能力があったのだ。ようやく主人に思い出されたスタンドはマジェントがそう思った瞬間に彼の体を包み込んだ。これで何も感じない、怪我をすることもない。マグロではこいつらも楽しくないだろう。マジェントは良い解決策を見つけたと思った。しかしピクリとも動かなくなったマジェントを見て、男たちはついに彼が観念したのだと思ったようだった。
「ついに便所になる決心がついたか?」
そう言うと足元にいた男がスタンドを発動させ動けぬマジェントの尻に陰茎を突き入れた。痛みは勿論無いが、マジェントはあまりの嫌悪感に心の中で悲鳴を上げた。自分の体内に、男の逸物が入っているというその事実は恐怖以外の何物でもなかった。やめろ!と叫び、暴れたいがそれをするにはスタンドを解かねばならない。解いた瞬間に欠片も慣らされていないマジェントの尻穴は裂けるだろう。ガクガクと揺さぶられるがまま、どうすることもできない彼の顔に非情にも次々精液がかけられる。
決して綺麗な人生を歩んできたとは言えないマジェントだが、この仕打ちは男たちの狙い通り彼の心をズタズタにした。尻に陰茎が入っている以上、マジェントはスタンドを解けぬまま、ひたすらに早く終わることを願うことしかできなかった。
どのくらいそうされていたのかわからないが、気が付けばマジェントは精液まみれで一人、路地に転がされていた。自己防衛が働いたのか、途中からの記憶はすっかり飛んでいる。気温は零度に近かったが、優秀なスタンドは彼の体温の低下も防いでくれていて、どこも冷えてなどいなかった。ノロノロと服を身に付け、宿へと歩く。
マジェントは自分の部屋に入るなり今まで着ていた服を全てゴミ箱に突っ込んで、風呂に飛び込んだ。全身を痛いくらいに何度も洗い流すと、スタンドのおかげで最初に張られた頬の痕以外は何も残っていなかった。噛まれた首筋も、吸われた胸も、あれだけ犯された尻さえもいつも通りである。だが、陵辱された事実はマジェントの中からは消えなかった。全身からまだ精液の匂いがする気がして、何度も何度も湯を被り続けた。自分はあの男たちと同じくらいに薄汚れて、ウェカピポはまた一層遠くなった気がした。
そうして眠れぬまま朝を迎えた。いつも通りの時間にウェカピポがマジェントを起こしにくる。コンコン、とノックをして入ってきたウェカピポはいつもなら寝ているマジェントが起きていたことに驚いたようだった。
「おはようさん。」
悟られてはいけない、と平静を装って挨拶をすると怪訝な顔をしながら「起きているんならいいんだ」と言ってウェカピポは部屋を出ていこうとした。しかし、ピタリと足を止めマジェントの方を振り返った。
「その頬はどうした。」
「……ちょっと酒飲んで喧嘩しただけだ。たいしたことねぇよ。」
「それだけじゃなくて、顔色も酷い。……もし馬が駄目ならソリも用意できる。そちらがいいなら無理をせず言え。万全でジャイロたちに挑まねば意味がない。」
それだけ言い残すとウェカピポは今度こそ出ていった。昨日あったことを気付かれなかったことにマジェントはホッとしたあとに、やりきれぬ気持ちで泣いた。凌辱されたという事実もウェカピポの優しさもどちらも胸に突き刺さり、それを防御する術をマジェントは持っていなかった。




無敵の防御は本当は表面しか守れない、という話。
ちょっと趣向を変えて全力でマジェントを苛めてみました。
本当にマジェントごめんね……。