ロマンチック 


それだけの関係







 いつだったか、たしか場所は薄暗い路地裏だった。人通りのない静かな、自分たちにお似合いな湿っぽい空気だったことをマジェントは覚えている。 そこで戯れに顔を寄せたマジェントに、ウェカピポが『キスをするならせめて目を閉じろ』と言ってから彼らは目を閉じてキスをするようになった。 愛を確認し合う行為でもない、恋人同士でもない彼らにとって意味のないキスだ。ただ、一度始まってしまったそれは習慣のようになってしまった。 顔を寄せて目を閉じるのが合図で、ウェカピポは黙って同じように瞼を伏せて口付けを受け入れる。マジェントはこっそり彼のその一連の仕草を見るのが好きだった。
 隣に座っているウェカピポと目が合って、ゆっくり顔を近づけると彼は微かに目を見開いたあと、一瞬諦めたような顔をしてゆっくり目を閉じる。 影を落とす、存外長い睫毛を見届けて満足したマジェントは視覚を捨てて唇の感覚だけに専念することにした。 ウェカピポの唇は柔らかく、でも少しだけ乾燥していた。リップ音を立てて何度も軽く口付けていると、唇の端に当たる髭がむず痒くて気になる。 この感覚はウェカピポとキスをするようになって初めて知った感覚であった。そっと舌を侵入させて絡ませるとウェカピポの呼吸のリズムがわずかに乱れた。 その拍子にマジェントの心臓はドキリと心拍数を跳ね上げる。ドキドキと鳴り響く鼓動の音と、ウェカピポの呼吸音に聴覚を犯されて快感が背筋を駆け上がる。 密着した体越しに、早鐘を打つ心臓の音はウェカピポにバレてしまっているかもしれないが、理由のわからないそれはマジェントには止めようがなかった。 もしかしたらマジェントはウェカピポを愛しているのかもしれない。こんな行為を大人しく受け入れるウェカピポだってもしかしたらマジェントを愛しているのかもしれない。 しかし彼らは決して口に出したりしない。ただ、目を閉じて口付けをするだけだった。それだけで彼らは事足りるのであった。



特に意味はないけど恋人未満の微妙な関係のウェカマジェ萌えるなーというそれだけの短文です…