ロマンチックホテル-2 刺すような冷たさを感じて目を覚ました。都心からやってきた自分たちには少々厳しい寒さだ。これからまだ寒い所へ向かうのだからそんなことは言ってられないのだが。起き上がると、昨日慣れないことをしたせいか体中がギシギシと軋む。男を受け入れるなんて本当のことを言うと初めてだった。 ウェカピポが(マジェントには決して教えてはくれない)何らかの理由で国を追放され、自分と出会うことになったのをマジェントはもはや運命だと思っていた。きっと自分に出会うために彼はそういう運命を辿りこの国へやって来たのだ。 ウェカピポは基本的には無愛想だし、マジェントの話に相槌すら打たない時があるが、道中体調を崩した時には信じられないほど優しかった。妹がいたから慣れているんだ、と言い訳めいたことを言いながら粥を作ってくれ、氷嚢を置いてくれたりテキパキと身体を拭いたりして看病してくれた。 マジェントもいろんな人間と組んできたがこんな風に優しくしてもらったのは初めてである。あまり体の強い方ではないので長期の仕事になるとよく体調を崩すのだが組んだ相手によっては「足を引っ張りやがって!」と宿に置いて行かれることもあった。仕事をする上で体調を管理できない自分を足手まといだと思うことは当然だと思っていたので恨みはしなかったが、マジェントは少し悲しかった。 しかしウェカピポは罵声を浴びせかけずに看病をしてくれた。 マジェントはウェカピポの作った少し薄味の、でも旨い粥を食いながらその時初めて彼を好きだと思った。運命だと感じたのもこの時だ。 自分が彼を好きなら彼にも自分を好きになってもらいたい。そのためにはウェカピポの役にたたねば。何か喜んでもらわねば、とウェカピポ曰くの小さな脳みそでマジェントは一生懸命考えた。彼の能力では役に立てることなんて限られていたし、分かりやすい既成事実が欲しかったのもあった。そして昨日の行為へ至る。 着替えようと服を脱ぐと正面にちょうど姿見があった。写りこんだ自分の肩口に歯形を見つけにやりと笑う。 昨日彼のベッドに潜り込んだ時は、気持ちが悪いと蹴り飛ばされる可能性も考えていたのだが、意外にもウェカピポはすんなりと誘いに乗った。しかも、どういうことか最中の彼の手は驚くほど優しかった。終わってからは何やら葛藤していたようだったが。 朝起きてからのウェカピポの様子を見ているとどうやら昨日のことはなかったことにしようとしているようだ。不自然なほどにいつも通りであろうとしている。 「マジェント、早く着替えろ。もう出発するぞ。」 ノロノロしていると怒られた。ウェカピポはすっかり支度を終えてすぐに出発できる状態だ。イライラと鉄球を弄る後ろ姿に声をかける。忘れようとされては困るのだ。 「ウェカピポさんよォ、いつも通りにしても昨日のことはなかったことにはならないぜ。」 彼の背中がギクリと強張ったのを見た。ウェカピポの正面に回り込みさらに追い討ちをかけるように言葉を続ける。 「痕跡として残ってる、忘れようとしても消えやしねぇよ。事実は事実だ。」 シャツを捲って見せればカッとなってウェカピポが手を振り上げた。これは避けられないかもしれない、と一瞬思ったが飛んできた拳は意外にもすんなり受け止められた。ウェカピポと自分の力量の差を考えれば全力で殴った訳ではないのだろう。「本気じゃねぇな。優しー」と茶化すとウェカピポがチッと舌打ちをした。 隙を見て掴んだ腕をそのまま引っ張ってキスをしようとすると反対の手で顎を掴まれる。 「おっ」 「そう何度も同じ手には引っ掛からん。」 「キスぐらい、いいだろ?」 「ふざけたことを言うな。そんなことより早く支度しろ。置いていくぞ。」 グイッと体を押して突き放された。置いていかないくせに、とマジェントは心の中で思ったが口には出さなかった。多少マジェントのことは馬鹿にしている節はあるが、根は優しいのだ。今まで組んできた心無いクズとは違うとマジェントは思っている。 入口の前で腕を組んでマジェントを待つウェカピポに(怒られない程度に荷物を纏める手を動かしながら)聞いた。 「結局あんたは俺のこと好きなのか?それとも嫌いなのかよ?」 「俺の気持ちはどうでもいいんじゃなかったのか」 「やっぱ気になるんだよ」 数呼吸分、ウェカピポは黙った。そうだな、とぽつりと漏らす。 「嫌いかと言えばそんなことはない。親愛の情は多少あるとは、思う。話していると疲れるときもあるがな。」 素直な返答にマジェントは驚いて言葉に詰まった。ウェカピポはそこまで言うといつも通りの仏頂面に戻った。 「…そんな風に言うと期待するぜ?」 返事はない。いつも通りの冷たい視線が返ってくるのみだ。それでもマジェントは嬉しくて堪らなかった。 以前イベントで無料配布したロマンチックホテルの続編。 マジェント視点で見るとこんな感じでした。 |