口が滑った 



珍しくウェカ→マジェです






俺は今、これまで生きてきた中で一番吃驚しているんじゃないかというほど驚いている。誰か説明してくれ。

ことの始まりは、俺が女を買いたいと言ったところだ。男二人の長旅、女っ気はゼロ。溜まらない方がどうかしている。
しかし相棒のウェカピポは「金と時間の無駄だ」と一蹴しやがった。金は必要最低限以外はウェカピポが握っているのでこいつが良しと言わないと俺は諦めるしかない。俺は必死で食い下がった。
「あんたは女抱きたくねえのかよ。この街の娼婦美人ばっかりだぜ。なあ、あんたも一緒に行くならいいだろ?」
「お前とは違う。行くわけないだろう。」
呆れたような、侮蔑を含んだような視線を浴びせられる。予想の範囲内の答えだったがやはり腹が立つ。いつだってウェカピポは俺を馬鹿にしている。
「その年でもう枯れてんのかよ。不能か?」
ぶつぶつと嫌みをぶつけてもウェカピポは何の反応も返さなかった。その態度が俺のイライラを更に増幅させる。あんまり腹が立ったんで仕返ししてやることにした。背を向けるウェカピポに後ろから手を伸ばし抱きついた。ふうっと耳に息を吹きかける。
「あんたと違う、若い俺は溜まってんだよ。あんたが相手してくれるってのか?」
こういうネタを使うとだいたいの男は嫌がる。仕掛ける俺も気持ちが悪いという両刃の剣だが、ウェカピポも例外ではなく嫌がるはずだ。さて普段むっつりと難しい顔をしているこの男はどんな顔をしているだろうか、と顔を覗きこんだ瞬間、俺の後頭部は床とキスしていた。
いや、後頭部と床だけではなくウェカピポともキスしていた。そして冒頭に戻る。

俺は痛みも相まって、大層混乱して目を白黒させていたが、ウェカピポは気にとめることなく唇を貪る。逃げようにも床に縫い止めるように抑えつけられ、身動き一つ出来ない。改めて力の差を思い知らされた。
ぬる、と舌が唇を割って入ってきて咥内まで犯される。やばい。受動的な女とは違う征服されるようなキスは目眩がするほど気持ちがよかった。
くぐもった声を上げるとウェカピポは目だけで笑う。あ、その顔意外。歯列をなぞられ、飲みきれない唾液が顎を伝う。酸欠でふらふらし始めた頃にやっと唇が離れた。はあ、と息を吐いてウェカピポを見上げる。
「何だ、その顔は。言った通りにしただけだろう。」
「あ、あんたなぁ…。」
冗談めいた表情で笑う訳でもなく、全くの真顔で言ってのけるウェカピポは、多分本気なのだろう。
こちらが何か言うより先に服の裾を捲り上げられ、思わず制止の声を上げる。お前にそんな羞恥心があったのか、と言いながら俺の言葉を無視してウェカピポは腹に口付けた。驚きで思わず体が跳ねる。
「やめろって…!」
「煩いぞ、マジェント。」
「やっぱさっきの嘘、嘘。だからやめようぜ!」
「何を言ってるんだ。お前にしては珍しく良い提案だから乗ってやってるんだ。」
大人しくしてろ、とまた唇を塞がれた。
ああ、何でこんなことになったんだ。本来なら今俺はかわいい女の子を抱いて楽しい時間を過ごしていたはずなのに。どんなに後悔しても俺に残された道はこのキスを受け入れることだけだった。



Be careful what you say
(口はわざわいのもと)



いつもと反対のウェカマジェを書いてみよう!という挑戦でした。
どノンケなマジェントもいいなあ。
この話のウェカピポさんは別にマジェントが好きなのではなくて放っておいたらうるさいから相手してやろうって感じなので…よく考えたらウェカ→マジェでもない…ですね…