吐く息が白い 咳が止まらなかった。強いとは言えないこの体では珍しいことではないが慣れるものでもない。苦しいものは苦しい。ヒュウ、と息を吸うたび冷たい空気が肺を刺す。気管支の痛みに思わず顔をしかめた。 「どうした?」 前を走っていたウェカピポが振り返り声を掛けてくる。何もないという意味で首を横に振ると、馬を止めろと言うので仕方なくこちらも馬を止めた。ヒューヒューと喉を慣らしながら何でもないと答えるとウェカピポの表情が歪む。 「そんな強情さはいらない、やめろ。」 「うるさい。」 声を発するとまた咳が出た。ウェカピポが馬から降りてこちらに来る。そりの側に屈み、背を擦られた。過剰な病人扱いに腹が立つ。たかが咳が止まらないだけじゃあないか。 「顔色も少し赤いな…熱もあるんじゃないか?」 ウェカピポの手が頬へ伸びる。ひんやりと冷えた指先や手のひらは気持ちが良かった。そのまま額へと移動し、残念だが離れてしまった。うん、とウェカピポが何か納得して頷く。 「やはり熱があるな、あと少しのところに街があるから今日はそこできちんと休むぞ。」 「仕事第一のエリートらしくねェな。急いでんだろ、日が落ちるまでまだ時間はあるからもうちょい走ってもいいんだぜ?」 あまりにも優しいんで、腹が立つよりむず痒い感触が湧き上がる。何となしに、もう少し言葉で抵抗してみた。いつもなら険しい表情になるはずのウェカピポだが、 「いざ着いてもお前が倒れたままでは意味がない。」 と表情を変えずにあまりにもさらりと返すので、次の悪態は出てこなかった。そんな言い方ではまるで心配されているようではないか。この男にそんな期待を持つなんて馬鹿げているが、そう思いこんでしまいたい気もした。 「今日はほんと、あんたらしくねぇよ。優しすぎ。あんたも熱あるんじゃねぇのか?」 「熱があるのはお前だけだ。落ち着いたなら早く行くぞ。」 軽く小突かれた。それは照れ隠しか?後で聞いてみようと思った。喉はヒューヒューと鳴り相変わらず空気は冷たいが、もう痛いとは感じなくなっていた。 「堅物でめんどくさいよくわからないやつ」から「ほんとはこいつ優しいんじゃね?」って思い直すマジェント。 「好きだったこともある」と言ってたので多分優しくされたのだろう、と思って書いた文でした。 |