前夜 

前夜






摂取したアルコールは全く効きやしない。二人であけたボトルはもう何本も床に転がっている。
妙に冷えた体と澄んだ脳で一言、組織を裏切ろうと思っていると言った。
「お前が決めたなら俺は止めやしねぇよ。」
壮大で無謀な計画を他の仲間より一足早く打ち明けると、驚くような素振りも見せずプロシュートはそう言って笑った。
ずっと前から知っていたという風に。普段と変わらず唇は美しく弧を描く。
「むしろ二年も待てたのが不思議だぜ。あんたらしいねちっこさと遅漏具合だな。」
酔ったような風を装った陽気で下品な言い回しだがプロシュートも酒は全然回っていないようだ。眼光の鋭さは欠片も失われていない。
穏やかに見えて張り詰めている自室の空気の重圧に、笑い返すことも出来ず酒を煽った。アルコールが喉を焼く。溶けた氷がカラリと音をたてる。
どんなに空気が重くとも、言いたいことは今言っておかねばならない。改めてプロシュートの方に向き直るとソファがギシリ、と悲鳴を上げた。
「正直、俺以外の仲間は国外にでも逃亡してほしいと思っている。」
この謀反の成功する確率は限りなく低いと思っていた。この苦しい二年間を共に過ごした仲間の心境や彼ら自身の掲げる誇りだってわかっているが、
それでも出来るなら皆には幸せに生きて欲しかった。
「もちろんお前たちの意志は尊重するが…」
優雅な笑みを浮かべていた唇はいつの間にか引き結ばれていた。怒りに近いが決してそうではない表情。
「リーダーであるあんたの意志は俺ら暗殺チームの意志だ。随分前に俺ァ決めたんだよ。他の奴らだって同じだ。」
「しかし俺はお前たちには少しでも幸せに生きてほしいんだ。俺のことなんか忘れて違う人生を歩んでくれて構わない。これは俺が独断で決めたことだ。」
暗殺者であることを忘れ幸せに生きて欲しい。お前の意志を無視してでもと思うくらいに。しかしプロシュートは立ち上がり、静かに続けた。
「俺の誇りを傷つけることは例えお前だって許さねぇぜ。俺はお前の恋人である前に、暗殺チームの一人だ。」
ゴツンと胸を拳で叩かれる。
「お前がボスを裏切るって決意したんなら、俺はお前についていくって選択肢以外選ぶはずがねぇよ。」
ニヤリと笑うと今度は両頬を掴まれて額を合わせついでに口付けられた。軽く唇が触れて、離れていく。ブルーの瞳は穏やかだった。
「お前には俺より長生きしてもらわねぇと困るからな。俺がついてねえと。」
「俺だってプロシュートには俺より長く生きて欲しい。」
真剣に言うとプロシュートは噴き出して、じゃぁ二人同時に死ぬか!と笑った。




組織を裏切る少し前の2人。
パッショーネではなく暗殺チームに所属していると考えている兄貴。
もう少し掘り下げて書きたいところもあったのですがわかりにくくなってしまったので少し削りました。それで矛盾が生まれてたらすみません。
続きとか前後が書ければ書くかも