きみのくちづけのあまさ 勉強を教えてください、と言ってフーゴを呼んだ。急な願いだがフーゴは拒まなかった。一度は裏切る形になってしまったことの後ろめたさか、僕がボスという肩書きを持っているからかは知らないが彼は驚くほど僕に従順だ。 菓子と紅茶を用意して待っているといくらかの本を持ってフーゴが僕の自室に入ってくる。表情は少し硬い。どうぞ、と笑顔で迎え入れる。教師役の彼は用意されたいかにも高級そうな椅子に少し居心地悪げに座った。 紅茶を勧めるとありがとう、とそこで初めて笑う。フーゴは受け取った紅茶にミルクを少し多めに注いだ。 「では早速始めましょうか。わからないところはどこですか。」 やわらかい口調で彼は教科書を開きながら言う。本当のことを言えば勉強を教えて欲しいなんていうのはただの口実で、わからないところなどほとんどないのだが。 適当に選んだ部分を答える。フーゴの説明は丁寧でわかりやすかった。では解いてみてください、と問題集を渡された。真摯な表情に、口実をつけて呼び出したことに少し罪悪感を覚えながら解いてゆく。 ちらりとフーゴを見やると先ほどの紅茶に口を付けている。今キスすればとても甘そうだ、などと考えながら解いた問題集をフーゴに渡した。 「君は顔に似合わず悪筆ですね。」 フーゴは渡された問題集を見て小さく笑った。彼は赤いペンで綺麗な丸をいくつも描いていく。僕はその指先を、紅茶を啜りながら眺める。 僕の紅茶も甘い。大方丸を付けたころ、フーゴが口を開いた。 「君は優秀だから教えることがないよ。」 褒められたのではなく、彼の感傷がぽつりと零れたのである。わかりにくく、よく観察していないと気付かないが彼の表情は少し傷ついたものだ。 彼の脳内には前に教えていた、勉強のできない年上の彼が浮かんでいることだろう。非常に子供っぽいとはわかっているが、苛立ちを感じてしまう。 「誰と、比べているんですか。」 わざとわかりきったことを意地悪く聞いてやるとフーゴの手が止まった。睫毛が少し震える。数呼吸分、沈黙してからふう、とフーゴは息を吐いた。 「別に…、誰とも比べてなんかいませんよ。」 「…怒らないんですね。」 「怒らないとも。」 僕がボスの座についてからフーゴは怒ることが無くなった。前はあんなにキレやすかったのに、とミスタが心配するくらいに。選択を誤ったという悔いは彼に大きな傷を残した。 「…ごめんなさい、でも。今はあなたには僕しかいませんから。」 ねえ、と言って彼を引き寄せ机越しに口付けた。またその僕の言葉に傷付き眉を下げ、悲しげにゆっくり瞼を閉じフーゴは受け入れる。予想通り、その咥内はとても甘かった。 自分の知らないところで大切なものを失ってしまった、という喪失感に苛まされる君をとてもとても心配しているとともに僕はその傷ついた表情が好きなのだ。 まだ立ち直り切れていないフーゴと何とかしてあげたいなあと思いながらちょっと意地悪してしまうジョルノ。 |